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見解・談話等
【見解】真に役立つ医療安全調査委員会の実現を求めて
−厚生労働省の「第三次試案」に対する意見として−
2008年4月10日   
日本医療労働組合連合会


1.第三次試案と日本医労連の基本的立場

(1) 政府・厚生労働省は、「医療安全調査委員会(仮称)」の設置に向けた検討をすすめており、4月3日には「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案 −第三次試案− 」が公表されました。
 昨年10月に出された厚生労働省の「第二次試案」では、刑事手続きとの関係について「必要な場合には警察に通報する」などと短絡的に書かれたため、医療関係者から大きな批判の声があがるとともに、政党や医療関係団体、患者団体などからもさまざまな見解や提言が出されました。
 厚生労働省は「第二次試案」以降も、「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」などで議論をすすめてきましたが、今回の「第三次試案」は、そうした論議の到達点、現時点における厚生労働省の考え方として出されたものです。

(2) 日本医労連は、医療事故が社会問題化し出した1990年代後半からいち早く、「医療・看護事故の再発防止のための緊急提言」(1999年3月24日)を発表するなど、医療事故を防止し、患者・国民とともに、安全でゆきとどいた医療・看護を実現していくという立場を明確にして、政府に制度整備を求めるとともに、安全度チェックなど職場改善のとりくみをすすめてきました。
 第三者機関の設置についても、2001年には諸団体にさきがけて、「提言・日本医労連が提案する医療事故防止委員会(仮称)の内容」(2001年4月11日)を発表し、その実現を求めて運動してきました。

(3) こうした立場から、日本医労連は、政府が「医療安全調査委員会(仮称)」の創設に動き出したことを、基本的には歓迎するものです。
 今回の「第三次試案」は、刑事手続きとの関係で出されていた医療関係者の声を受け止め、内容がかなり改善されています。しかし、医療事故の被害者や遺族などの中には「責任逃れではないか」という批判があることも事実です。今後の具体化にあたっては、医療従事者と被害者・遺族、国民双方の要望を十分に勘案しつつ、真相究明と再発防止という観点からの合意づくりが重要です。国民的な議論が深まり、その合意の下に、医療事故の真相究明と再発防止、安全でゆきとどいた医療・看護の実現に真に役立つ機関として、「医療安全調査委員会(仮称。以下、「委員会」という)」が早期に設置されることを切に願うものです。

2.日本医労連が求めてきた医療事故防止委員会の内容

(1) 日本医労連が2001年に提言し、その実現を求めてきた「医療事故防止委員会(仮称)」の基本的な内容は、下記のとおりです。
「提言・日本医労連が提案する医療事故防止委員会(仮称)の内容」より 
続発する医療事故に対して、現場では看護婦(原文のママ)などの個人責任の追及が強められ、組織的な医療事故防止対策が遅れているのが実態です。警察による捜査も、その性格上、最終行為者の処罰が目的となっています。また、国や医療関係団体等から対策などが打ち出されていますが、最終的な対策は医療機関任せというのが実態です。 医療事故防止のためには、個人責任の追及で終わらせず、事故が起きないシステムづくり、ミスが起きても重大事故につながらない対策が求められています。医療事故が国民的な課題となっている中で、国をあげて対策を抜本的に強化する必要性から、その責任を負う専門組織として、以下のように「医療事故防止委員会(仮称)」を提起し、国民的議論と具体化を呼びかけるものです。
@公平性の保たれる独立した機関であること 
医療事故の続発と情報開示の遅れについて、患者・国民は医療機関や行政に対する不信感を増大させている。医療事故防止委員会(仮称)は、公平で客観的な判断がおこなえるよう、医療機関・団体や行政から独立した第三者機関として設置される必要がある。
A総合的な専門性とともに国民性を持たせること 
医療・看護関係者だけでなく、ヒューマンファクターや心理学、人間工学などの研究者など、総合的な専門性を持った機関とする必要がある。同時に、公平性との関係でも、患者・市民代表などを加え、国民性を持った構成とすることが求められる。
B調査と対策勧告の権限を持つ機関であること 
個別事故の原因究明とともに、医療事故防止のための調査・研究と教訓化を中心とした機関とする必要がある。そのためには、医療機関に事故報告を義務づけるとともに、定期的な調査をおこなう権限を付加する必要がある。 同時に、調査・教訓化に基づいて、医療機関や行政、メーカー等への改善を勧告する権限を持たせる必要がある。
C公開性が保障されること 
事故情報や教訓、対策を医療機関や国民に広く公表する公開性を持たせる必要がある。
D常設機関として設置されること
調査や勧告をおこない、それらの状況を検証していくため、常設機関として設置される必要がある。国に設置するとともに、きめ細かな対応のためには、出先機関を各都道府県に設置する必要がある。

(2) 今回の意見表明にあたっては、上記の内容を基本においた上で、「第三次試案」への意見を中心に、日本医労連としての基本的な考え方を再度整理したものです。

3.委員会の基本的な骨格について

(1) 委員会の目的について「第三次試案」は、「医療死亡事故の原因究明・再発防止を行い、医療の安全の確保を目的」とするとし、「委員会は、医療関係者の責任追及を目的としたものではない」「このような新しい仕組みの構築は、医療の透明性の確保や医療に対する国民の信頼の回復につながるとともに、医師等が萎縮することなく医療を行える環境の整備にも資するものと考えられる」としています。
 基本的には、「第二次試案」に寄せられた不安や批判の声に応えて、具体化されたものだと受け止めます。今後の具体化にあたっては、掲げられた「原因究明・再発防止、医療の安全の確保」という目的を貫いていくことが何より重要です。そうしてこそ、遺族や患者・国民と医療従事者双方の不安の声に応え、よりよい制度をつくっていくことができると考えます。
 ただし、後でも述べますが、「死亡事故」に限っている点に関しては、再考が必要です。体制整備など当面は仕方がない面もありますが、本来は死亡に至らなかった医療事故も対象にすべきです。そうしてこそ、真の意味で医療安全の確保にもつながりますし、また、司法との関係などもすっきりと整理できると考えます。

(2) 委員会の設置場所については、「医療行政に責任のある行政機関である厚生労働省とする考えがある一方で、医師や看護師等に対する行政処分を行う権限が厚生労働大臣にあり、医療事故に関する調査権限と医師等に対する処分権限を分離すべきとの意見も踏まえ、今後更に検討する」とされています。
 委員会が医療従事者とともに、遺族をはじめ患者・国民双方の信頼を勝ち得て機能するためには、「公平性」「中立性」が担保されることが何より重要です。したがって、「行政処分の権限」という点だけでなく、繰り返される薬害等の問題もあわせて考えれば、厚生労働省内に設置すべきではありません。
 一方で、調査権限や秘密保持という側面、改善勧告の必要性なども考慮すれば、行政組織であることも必要です。したがって、内閣府等に設置する独立行政組織を念頭に置きながら、独立した第三者機関として具体化すべきです。

(3) 委員会および調査チームの委員については、「いずれも、医療の専門家(解剖担当医(病理医や法医)や臨床医、医師以外の医療関係者(例えば、歯科医師・薬剤師・看護師)を中心に、法律関係者及びその他の有識者(医療を受ける立場を代表する者等)」とされています。
 個別事例の調査チームについては、医療の専門家が中心にならざるを得ない面もあります。しかし、同時に、中央・地方に設置される委員会については、公平性が担保され、国民的な信頼を勝ちとり、医療安全に資するという観点が重要であり、委員構成にもそれが反映される必要があります。また、再発防止という観点から、医療事故の背景としての業務システムや人員体制なども含めて、ミスが重大事故につながらない教訓化をすすめ得る体制とすることが必要です。
 したがって、医療の専門家に偏ってはならず、ヒューマンファクターや人間工学、心理学等の専門家などとともに、患者や市民代表を加えた委員構成の多面性と国民性が必要です。

4.委員会への届出範囲について

(1) 「第三次試案」は「医療死亡事故の再発防止、医療に係る透明性の向上等を図るため、医療機関からの医療死亡事故の届出を制度化する」として、委員会への届出範囲については、「@誤った医療を行ったことが明らかであり、その行った医療に起因して、患者が死亡した事案(その行った医療に起因すると疑われるものを含む。)、A誤った医療を行ったことは明らかではないが、行った医療に起因して、患者が死亡した事案(行った医療に起因すると疑われるものを含み、死亡を予期しなかったものに限る。)」とされています。
 また、届出範囲に該当するか否かの判断は、「死体を検案した医師(主治医等)ではなく、必要に応じて院内の検討を行った上で、当該医療機関の管理者が行うこととする」とされています。
 多くの医療事故がシステムエラーである点を考慮し、組織的な対応を基本とすることが重要であり、科学的な知見に基づいて正常な医療行為が届出を義務付けられることのないよう、今後いっそう届出範囲を明確化すべきと考えます。同時に、遺族や患者・家族等の感情に配慮した具体化が重要であり、「第三次試案」も指摘していますが、遺族等からの相談・調査依頼を受け付けることが必要です。

(2) 「第三次試案」は、@届出範囲に該当すると医療機関の管理者が判断したにも関わらず故意に届出を怠った場合、A虚偽の届出を行った場合、B管理者に報告が行われなかった場合等について、刑事罰ではなく、「医療機関の管理者に、まずは届け出るべき事例が適切に届け出られる体制を整備すること等を命令する行政処分を科す」とされました。
 また、「医師法第21条を改正し、医療機関が届出を行った場合にあっては、医師法第21条に基づく異状死の届出は不要とする」「専門的な知見に基づき届出不要と判断した場合には、遺族が地方委員会による調査の依頼を行ったとしても、届出義務違反に問われることはない」と明記されました。
 届出の義務化との関係から言えば、あるべき方向です。国民的な合意づくりをすすめつつ、行政処分の内容についても明確化するよう求めるものです。

5.刑事手続きとの関係について

(1) 捜査機関への通知について「第三次試案」は、「医療事故による死亡の中にも、故意や重大な過失を原因とするものがあり刑事責任を問われるべき事例が含まれることは否定できない。医療機関に対して医療死亡事故の届出を義務付け、届出があった場合には医師法第21条の届出を不要とすることを踏まえ、地方委員会が届出を受けた事例の中にこのような事例を認めた場合については、捜査機関に適時適切に通知を行うこととするが、医療事故の特性にかんがみ、故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例に限定する」「診療行為そのものがリスクを内在するものであること、また、医療事故は個人の過ちのみではなくシステムエラーに起因するものが多いこと等を踏まえると、地方委員会から捜査機関に通知を行う事例は、以下のような悪質な事例に限定される」として、次の3点があげられています。
@ 医療事故が起きた後に診療録等を改ざん、隠蔽するなどの場合
A 過失による医療事故を繰り返しているなどの場合(いわゆるリピーター医師など)
B 故意や重大な過失があった場合(なお、ここでいう「重大な過失」とは、死亡という結果の重大性に着目したものではなく、標準的な医療行為から著しく逸脱した医療であると、地方委員会が認めるものをいう。また、この判断は、あくまで医療の専門家を中心とした地方委員会による医学的な判断であり、法的評価を行うものではない。)

(2) 先にも触れたように、「第二次試案」からすると、はかなり改善されました。しかし、「重大な過失」の内容については、いっそうの検討が必要です。なぜなら、このままの定義では、捜査機関への通知がかなりの件数になることもありうるからです。医療事故・訴訟への懸念が勤務医等の離職や産科・救急医療等の後退などの一因ともなっているということ、さらに、医師や看護職員等の不足と劣悪な労働条件、配置人員の少なさが医療事故の背景としても指摘されていることなどを十分考慮し、事故隠しなどの問題を惹起しないという点も考えながら、「重大な過失」の内容を検討して、捜査機関への通知は極めて限定的にすべきです。
 いま医療の現場は、入院日数の短縮・患者の重症化などの中で、かつてないほど過密・過酷な労働実態になっています。それでも医師や看護職員はじめ医療従事者は、患者のいのちと安全を守ろうと努力を重ねているのであり、萎縮医療や離職を誘発しないという観点からの具体化を求めるものです。

(3) 委員会が有効に機能するためには、「委員会からの通報がなければ、警察は捜査しない」ということが、制度的に担保される(法律に明記するなど)ことも必要です。そうでなければ、医療機関が届出をおこなわず、医療事故隠しがひろがる事態にもなりかねません。医師法第21条を改正し、医療事故を警察への届出対象から外すことが必要です。
 同時に、委員会が扱う(調査の)範囲については、最初は死亡事故に限定されるにしても、国が財政的な保障をしっかりおこない、早期に障害が残った事例等に範囲を拡大すべきです。そうでなければ、死亡に至らなかった医療事故に関しては、依然として警察などの捜査機関が扱い、刑事処分が中心というおかしな状況になってしまいます。

(4) これらの内容については、医療事故の被害者や遺族・家族、国民の理解を得て具体化していくことが必要です。再発防止、安全でゆきとどいた医療の実現という観点から、国民的な議論と合意づくりをすすめていく必要があります。
 また、「第三次試案」にも触れられていますが、裁判外の紛争処理システム(ADR)を整備することが必要です。政府・厚生労働省は、民間のADR機関の活用をかかげていますが、実績を持つ民間機関を活用するとともに、民間任せではなく、政府が財政的な負担もしっかりして、早急に体制を整備すべきです。


6.行政処分について

(1) 行政処分については、個人に対する業務停止を中心とした内容から大きく見直す内容として提起されています。「行政処分は、医療の安全の向上を目的とし、地方委員会の調査結果を参考に、システムエラーの改善に重点を置いたものとする」として、具体的には、下記の内容となっています。
@ システムエラーの改善の観点から医療機関に対する処分を医療法に創設する。具体的には、医療機関に対し、医療の安全を確保するための体制整備に関する計画書の提出を命じ、再発防止策を講ずるよう求める。これにより、個人に対する行政処分については抑制することとする。
A 医師法や保健師助産師看護師法等に基づく医療従事者個人に対する処分は、医道審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が実施している。医療事故がシステムエラーだけでなく個人の注意義務違反等も原因として発生していると認められ、医療機関からの医療の安全を確保するための体制整備に関する計画書の提出等では不十分な場合に限っては、個人に対する処分が必要となる場合もある。その際は、業務の停止を伴う処分よりも、再教育を重視した方向で実施する。

(2) 行政処分が、業務停止中心から、システムエラーの改善、再教育中心に変わることは、歓迎すべき方向です。同時に、医療事故の当事者となった看護職員等が精神的にも追いつめられ、離職等を余儀なくされていることも大きな問題であり、そうした場合の精神的サポート体制などもあわせて具体化すべきです。

7.無過失を含めた補償制度創設の必要性について

(1) 医療事故の真相究明制度を円滑に機能させるためにも、無過失の場合を含めた被害者・遺族、家族への医療事故の補償制度の創設が急がれます。
 現在、政府は産科に限って補償制度の創設準備をすすめています。しかし、その内容は、産科に限るというだけでなく、医療機関の出資・保険料拠出を基本にし、日本医療機能評価機構への併設という不十分な内容に止まっています。

(2) 医療事故の真相究明制度ができるわけですから、産科に限らず補償制度が確立していることが絶対に必要です。国民のいのちと安全を守るという観点から、国が必要の負担をおこない、十分な補償がおこなわれるよう求めるものです。


                                 以  上

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